ディオゲネス
アテネ五輪の聖火は、開会式へ運ばれる前にアクロポリスの丘に1泊した。オリンピアで太陽から採火され、五大陸を巡った炎が、2千数百年前に建てられたパルテノン神殿の足元にともる。古代からの大きな時の輪が、そこで静かに閉じるかのように思われた。
以前、この丘に登った時、野良犬を何匹か見た。パルテノン神殿へ続く道の植え込みには、大型の、ライオンのような毛色の老犬が、口からあぶくを出して伏せていた。場所柄か、老犬はディオゲネスを連想させた。
古代のキュニコス(犬儒)派と呼ばれる哲人の一人だ。学派名は、行状が、犬のごときもの(キュニコス)だったから、あるいは、派の開祖が講義を始めたのがキュノサルゲス(白い犬)という体育場だったからなどとされている(『ギリシアの詩と哲学』平凡社)
いわば無一物無所有の生活を理想とし、酒だるに住んだというディオゲネスには逸話が多い。ある時、アレクサンドロス大王が彼を訪ねた。大王が「所望するものは」と尋ねると、ひなたぼっこしていた哲人は答えた。「何もいらない! 日陰にならないようにしてくれ」。「余がもしアレクサンドロスでなかったら、ディオゲネスであることを望んだであろう」と大王に言わせたという。
アテネでは、五輪を前に野良犬が捕獲されたと聞く。老犬ディオゲネスは、どうしているだろう。「何もいらない! この騒ぎだけは早く終わりにしてくれ」とほえているか。
天声人語 2004.8.14 から
高校の倫社で哲学者の話をよく聞いた。お気に入りが何人かいる。古代ギリシャではソクラテス、プラトン、アリストテレス他多数いるが、興味深いのは、このディオゲネスだ。聞くところに寄ると、ディオゲネスは複数人いるらしく、お気に入りは、この話のディオゲネス。そう言えば、シャーロックホームズの兄のマイクロフトが所属しているクラブもディオゲネスといったっけ。
デカルトも良い。近代ではウィトゲンシュタインかな。論理哲学論考はライブラリの目の付くところにおいてある。
論理哲学論考 これは岩波文庫版。
なかなか面白い人だ。ASIN:4061157450「ウィトゲンシュタイン―天才哲学者の思い出」(講談社現代新書)辺りを読むとよく分かる。非常に面白い本だ。